プログラム
総 会(10:00)総合司会:小柳康子(実践女子大学)
開会の言葉:山脇百合子(日本ギャスケル協会会長)
報告・審議:多比羅眞理子
研究発表(10:30)
司会:石塚裕子(神戸大学)
1 小泉朝子(早稲田大学大学院)
「Macmillan’s Cranford Seriesの誕生」
1890年代、第二次挿絵本ブームが到来した。この時期、Macmillanが出版した挿絵本シリーズ、'Cranford Series' は、ノスタルジックな画風で商業的な成功をおさめ、シリーズ名に冠されたGaskellのCranfordも1891年に刊行されるや、大好評を博した。今回の発表では、1890年代におこった十八世紀リバイバルと、この 'Cranford Series' がどのように関わっていたのか、Gaskellの作品をふまえつつ、考察したい。
2 中村吏花(佐賀大学)
「Cousin Phillis における親子関係」
Cousin Phillis は片田舎の素朴な娘フィリスが初めて恋をし、それが失恋に終わるまでの経緯の記録が主な筋立てとなっている。フィリスは悲恋を乗り越えて大人へと成長するのだが、彼女が経験する苦悩は単に恋した相手ホールズワースとの関係によるものではなく、両親との親子関係によってもたらされるところが大きい。本発表では主人公フィリスと語り手ポールそれぞれの親子関係を対比させながら、作品を分析していきたい。
3 矢次 綾(宇部工業高等専門学校)
「短編小説における“odd women”の同胞意識」
Gaskellの短編小説には多くの "odd women" が登場する。その中でも取り分け顕著なのが、配偶者に恵まれずとも同性との関わりの中に自らの存在意義を見出し、生きる希望を獲得していく女性たちである。本発表では、"Libbie Marsh's Three Eras"、"Half a Life-time Ago"、 "The Manchester Marriage" などに登場する "odd women"を通して、Gaskellが同時代の女性たちに何を伝えようとしたのかを考察していく。
シンポジウム(13:00):「『メアリ・バートン』再読」
司会:直野裕子(甲南女子大学)
マンチェスターの工場労働者の悲惨な生活状況をリアルに描き、特に前半で圧倒的な存在感を示す人物ジョン・バートンを創造しただけでも、ギャスケルの作家としての力量は高く評価されるべきである。しかし、『メアリ・バートン』を一つの作品として見た場合、批判される点も多く、社会問題小説か、家庭小説か、という論議は今もなお続いている。一方、ギャスケル最初のこの長編小説には、後の多くの作品へと実っていく種々様々の萌芽が見られ、それを跡付けるのも興味深いことである。このシンポジウムでは、あえて包括的なテーマを決めずに、それぞれの講師が最も興味をもっていることについて、自由に発表することにした。
1 講師:鈴木美津子(大阪女子大学)
「労働者階級の表象 ―― 同時代の社会問題小説と比較して」
『メアリ・バートン』における労働者階級の表象に、より具体的には、団結した集団の労働者の表象に、エリザベス・ギャスケルのいかなる意識が反映されているのかを、同時代の社会問題小説、例えばディズレリィの『シビル』(1845)、ジョージ・エリオットの『フィーリックス・ホルト』(1866)などと比較しつつ、また時にはカーライルの『フランス革命』(1837)も援用しつつ、検証する。
2 講師:大野龍浩(熊本大学)
「Mary Barton as a Tale of Manchester Life, Not of John Barton」
この発表は、Mary Bartonを社会問題小説ととらえることに疑問を呈するものです。その根拠は、作中人物の登場頻度を統計的に調べた結果あきらかになる、「もっとも多く登場するのはMaryであり、父Johnではない」という客観的事実にあります。 「"John Barton is my hero."という作者自身の告白をどう説明するのか」、「文学の分析に数学はなじまない」などの反論が予想されますが、RuthやNorth and Southについて調べた結果に言及しながら、わたしの考えを述べたいと思います。
3 講師:直野裕子(甲南女子大学)
「母性の強調 ―― そしてアリス・ウィルスンのこと」
19世紀に活躍した他の女性作家と比べた場合、ギャスケルの一番の特徴は、母性を前面に打ち出したことであろう。彼女の言う母性的なものは、子供を産み育てる母親だけにあるのではない。また女性だけにあるのでもない。この母性という面から見ても、アリス・ウィルスン、ジョブ・リー、ジェイン・ウィルスンの3人は、この小説で重要な役割を果たしていると思われる。発表では、主としてアリス・ウィルスンについて論じてみたい。
4 講師:松岡光治(名古屋大学)
「ギャスケルのユーモア ―― その萌芽と特質」
この小説では、都会の労働者の生活に関して陰鬱な場面が数多く細部描写されるが、後の田園小説で進化を見せる喜劇的息抜きや日常生活の些細な事柄に対する異常な関心といったユーモアの場面もまた少なくない。発表では、ギャスケルのユーモアの特質がペイソスとコメディーの融合にあることの意味、そのユーモアが主として平凡な人々の卑近な例を題材にしている理由、そしてキリスト教における赦しとの関係などを論じる予定である。
講 演(15:30)
司会:小池 滋(東京都立大学名誉教授)
久田晴則(愛知教育大学教授)
「Dickensと住まい――Furnival’s Inn, Doughty Streetを中心に」
懇親会(17:00)
大手前大学アートセンター(会費は4,000円)
* 一般の方の来聴も歓迎します。